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2012.12.01
Vol.58 〈幸せって・・・〉



~あるお母さんの話~

そのお母さんは、出産予定日の前日に胎動がないというので来院されました。
急いでエコーで調べたら、すでに赤ちゃんの心臓は止まっていました。
胎内で亡くなった赤ちゃんは異物に変わります。早く出さないとお母さんの体に異常が起こってきます。

でも、産んでもなんの喜びもない赤ちゃんを産むのは大変なことなんです。
普段なら私たち助産師は、陣痛が5時間でも10時間でも、ずっと付き合ってお母さんの腰をさすって

「頑張りぃ。元気な赤ちゃんに会えるから頑張りぃ」と励ましますが、死産をするお母さんにはかける言葉がありません。
赤ちゃんが元気に生まれてきた時の分娩室は賑やかですが、死産のときは本当に静かです。しーんとした中に、お母さんの泣く声だけが響くんですよ。
そのお母さんは分娩室で胸に抱いた後「一晩抱っこして寝ていいですか」と言いました。
明日にはお葬式をしないといけない。せめて今晩一晩だけでも抱っこしていたいというのです。
私たちは「いいですよ」と言って、赤ちゃんにきれいな服を着せて、お母さんの部屋に連れていきました。
その日の夜、看護師が様子を見に行くと、お母さんは月明かりに照らされてベッドの上に座り、子どもを抱いていました。
「大丈夫ですか」と声をかけると、「いまね、この子におっぱいあげていたんですよ」と答えました。
よく見ると、お母さんはじわっと零れてくるお乳を指で掬って、赤ちゃんの口元まで運んでいたのです。
死産であっても、胎盤が外れた瞬間にホルモンの働きでお乳が出始めます。
死産したお母さんの場合、お乳が張らないような薬を飲ませて止めますが、すぐには止まりません。

そのお母さんも、赤ちゃんを抱いていたらじわっとお乳が滲んできたので、それを飲ませようとしていたのです。飲ませてあげたかったのでしょうね。
死産の子であっても、お母さんにとって子どもは宝物なんです。生きている子ならなおさらです。
一晩中泣きやまなかったりすると「ああ、うるさいな」と思うかもしれませんが、それこそ母親にとって最高に幸せなことなんですよ。

 

~生の反対は「生まれないこと」~

 

私の尊敬するある先生が、「生の反対は何だと思う?」と聞いてこられたことがあります。
「死じゃないですか」と私が答えると、先生は「僕は死じゃないと思うよ。生まれないことだと思う」と言われました。
生まれることが出来ない子どもがたくさんいるのです。生まれてきた者にしか、生も死もないのです。
だから、生の反対は生まれないこと、無なのだと。死産の子や流産の子をたくさん見ていましたから、先生の言葉はすとんと腑(ふ)に落ちました。

思春期に躓(つまづ)いた子どもたちと話していると、「おふくろには何もしてもらっていない」「産んでくれって頼んだ覚えはない」という子がいます。だから私は言うんです。

「お母さんが命がけで産んだんだよ。中絶もせんかったよ。だけど子育てはね、上手にできんかったの。それは悔しいかもしれんけどね、産んでもらったことだけでも感謝しぃ。生まれるってことは凄いことなんだよ」と。
この子どもたちにこれからどんな人生が待っているかわからないですから。
産んでもらったことに感謝して前を向いて生きていけば、必ず生きていてよかったと幸せに感じる瞬間があるはずです。生きていれば苦しいことも辛いこともあるかもしれませんが、生まれてこなかったら何もないんですよ。
幸せというのはとっても小さいことの積み重ねだと思うんです。家族一緒にご飯を食べるのも幸せですし、親子が笑い合えるなんて一番の幸せでしょう。
そんな小さな幸せに気づいて、感謝できる人が増えればいいなって思います。


内田美智子(助産師)

助産師一筋33年、2600人以上の赤ちゃんの
出産に立ち会ってきた内田美智子さん。

内田さんが語る母と子の感動実話は、
私たちが幸せな家庭を築く上での示唆に富んでいます。

感謝合掌。

 
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